ESSAY
「寝室のくつわ虫 第四章」
ー労働ライセンスー
とりあえず、ライセンス事務局に向かって申請用紙を見て、ほっとした。外国人用のフォーマットがあって、その分類に「日本人」と書かれたコーナーが存在するのだ。それも仕事はネットオンリー、やった~。 いそいそとそのフォーマットに自分の情報を書き込み、最後の個人分類欄に服役中と書いた。これを書くとかえって待遇がよかったりするのだ。ギャラは少ないけど服役中の人は一般の人よりよく働く。 何しろ一般の人は働かなくても良いのだから。今、世界中で真面目に働いているのはほとんどが服役中の人で国際的にももっとも良質な労働力として評価されている。
「よろしくおねがいします」
申請を出すと、受付の人はこれをスキャナに通す。するとディスプレイにデータが表示される。受付の人は上から表示されるデータを怪訝そうに見ていたが一番下のデータが表示されると急に笑顔になった。 そして日付けの入った紙を渡してくれた。そこには3日後の日付けがプリントされていた。なんと2週間のはずが3日で済むらしい。ラッキー。
「服役中ってスバラシイ、さ~、これから3日間何しようかな」
ホテルに帰ってシャワーを浴び、ノートの電源を入れる。
「早く、指つっこみたいなぁ」
ライセンスを取って1ヶ月しないと専用のネットワークには入れない。申請をして1ヶ月の審査期間でアドレスが交付されるから労働ライセンスを取ってすぐに申請をしても1ヶ月後になってしまう。 それまではマスクアドレスを利用して誰かから情報を得るしかない。メールチェックをしてみるとホヨヨa~ン、またあっちゃんからメールが届いている。
『そちらで専用ネットワークに入るライセンスが取れたらここに行ってほしい』
『XXXXXXX.XXXXXXX.XXX.XXXX.XXXX.XX1ヶ月後に会いましょう』
「なんだか怪しいなぁ~、また、何かあるのかなぁ」
なんとなく不安を感じながらノートの電源を落とした。さて、そろそろ夕食の時間だ。「レストランヌリョー」は相変わらず込むでもなくかといってガラガラというわけでもなく、のんびりとした雰囲気で開店していた。 そういえばお昼の残りの2品はどうだったかというと残りの2品が同じ麺を茹でたものと、揚げたものだった。ようするに「ラーメン」と「皿うどん」。どちらも味がなくてハニャレロをドバドバかけて食べる。 つまり、味はおんなじ、食感が違うだけ。はたからみたら何考えてんねん、という感じだろうがしかたがなかった。腹が減っていたのでなんとか食えたが、量も多いので1つ頼めば十分だという事がわかった。 そして夕食は一つだけ頼む。これで少しづつ名前がわかっていく。待つ事20分いわゆる「ラーメン」だった。う~む、これだったのか、などと考えながらハニャレロをかけていると後ろから
「ハニャレロ、セイチャ~ン」
ヤシダンの声だった。
「ハニャレロ、ヤシダ~ン」
僕も答えた。
「セイチャ~ン、ニホンジ~ン、コンニワチ」
「おっ、ヤシダン日本語出来るの?」
「ワシタ、ニホンゴ、バッチリ、ハナルセ」
かなりいい加減だが、ここで日本語らしきものが聞けると思ってなかったので泣きそうになってしまった。
「ヤシダン、これ何?」
ヤシダンは考えながら
「コレナニ」
と言った。いきなり解らないらしい。ほんとに彼と会話できるかどうか心配になってきた。そこで僕は考えた末、ラーメンのようなものを指差しながら、
「コレハワナニデスカ」
と言ってみた。
「おーっ、これはベキュリーです。そうです、その通りです」
思った通りだ。外国教科書に出ているローマ字日本語が通じるのだ。これで、この国になれていく事が出来そうだ。
「ヤシダン、一緒に食事をするのは、良いですか」
「ヤシダンは、せいちゃんと一緒に食事をするのは良いです」
こうして、二人で食事をしながらこの国の事と日本の事を話し合った。その中でわかったのは、ヤシダンも実は服役中、なんと僕とあまり変わらない状態らしい。ヤシダンはニリメール人で同じように国外退去になってヘルデコに来たというわけだ。 いわば、同じ穴のむじなってとこですかね。そこで意気投合した僕達は一緒に飲みに行った。ヘルデコ名物、ポラス通りだ。このポラス通りはアジアでは有名な飲みや街で屋台から高級バーまでなんでもありって感じなのだ。 僕達はお互い服役中なので高級なところには行けない。二人で街の屋台に入った。僕は注文をヤシダンにまかせて、屋台の雰囲気に浸っていた。
「お客さん、焼酎はどうだい」
マスターの顔を見たらどうやら日本人だった。
「俺の顔に何か付いているかい」
知らない人なのだが何だか知ってる感じがする。でもやっぱりなんだか不思議な感じだ。
「僕はあんたに会った事があるような気がするんだが?」
マスターはにやにや笑いながら言った。
「俺、ネコに似てないかい」
「ひょっとして、よっちゃんかい?」
「あたり~」
なんと、またもやよっちゃんの登場である。
「よっちゃん、どうしたの」
よっちゃんは、急に下を向いて、
「俺は、今、ヘリコという名前のニリメール人だ」
僕は瞬間的に今の状態を理解した。よっちゃんは今、ニリメール人だと言った。ヤシダンと同じだ。この店につれてきたのはヤシダンだ。つまり、ヤシダンはよっちゃんと繋がっている。 おかしい、僕はなんとなくこの国に来たはずなのに、あっちゃんの影がつきまとっている。良く考えたらあっちゃんのメールもおかしい。 『1ヶ月後に会おう』なんて、よ~く考えたら、労働ライセンスを取るのに2週間、それから1ヶ月かかるのだ。3日で労働ライセンスが取れるのを知っていたとしか思えない。 でも、今、そんなことを考えても何も答えは出てきそうもない。黙ってでされた焼酎を飲む。僕がいつも飲むグラスで冷やに近いワンショットグラスだった。いろんなつまみを食べながらしこたま飲んだ。 つまみは、アサリの酒蒸し、マグロの山かけ、等、日本のつまみだった。よっちゃんはヤシダンに言った。
「ヤシダン、ペリコ、チエネ、クヒャオ」
よっちゃんは店じまいを始めた。
「よっちゃん、何だよ」
よっちゃんは言った。
「ヘコ、アッチャン、チエネ、クヒャオ」
僕が解らないと思ってヘルデコ語を使うのはやめて欲しい。これではまるで文明人につれられている未開人ではないか。でも、しかたがない。おかげで、この国でなんだか面白い事になりそうだ。とにかく、付いて行く事にした。
「よっちゃん、ヤシダンに付いて行けばいいの?」
「そうだよ、ヤシダンに付いて行けばいいの」
ヤシダンが僕に向かって言った。
「せいちゃんと、一緒に行くのがとても良い」
こうなったらとことん付いて行こうではないですか。ああ付いて行きます。どこでも生きます。何が起こっても知るもんか。僕はヤシダンについて屋台を出行った。ヤシダンは先にたってどんどん進んで行く。 ある、如何わしそうなネオンきらきらの店に入って行った。おいおいどうなってるんだ。こんな店でなにをしようってんだ。ヤシダンはどんどん奥に入って行く。一番奥のテーブルに座ると、なんだかウフンというかんじのお姉さんが出てきた。 まずいことになってきたなぁ、と思っているとさらに女が出てきた。どっかで見た事のある女だ。
「あ、あんたは、あの時の.......」
そうなのだ。あの、成田で会ったというかジーッと見ていたあの女だ。日本人だ。多分。なにやらヤシダンと親しそうに話している。僕の隣のウフンの女はこっちの方を見ながらなにやら怪しい目線を送っている。思わず僕は、
「ヤシダン、ここへ何でするのですか」
ヤシダンはよっちゃんのようににやにやしながら、
「せいちゃんは、これから半分、地下に潜って元気です」
なになに~、地下に潜るだとぉ。僕は今、服役中なんだぞ。どうしたら、いいんだ。
「ヤシダン、私は服役中です」
ヤシダンはそれに答えて、
「この国では、地下は危険ではない、みんな半分は地下で生きている」
そうなのか。何となくわかってきたぞ。なんたって違法ネット天国だもんな。あまり、気にしていては生きて行けないのだ。きっと、そういう事なのだ。ヤシダンと二人でビールを1本飲んでから、ヤシダンは、
「せいちゃん、では、地下に行きます」
ヤシダンは、立ち上がってまた、どんどん先にたって店の奥に入って行った。当然僕は付いて行った。
とりあえず、ライセンス事務局に向かって申請用紙を見て、ほっとした。外国人用のフォーマットがあって、その分類に「日本人」と書かれたコーナーが存在するのだ。それも仕事はネットオンリー、やった~。 いそいそとそのフォーマットに自分の情報を書き込み、最後の個人分類欄に服役中と書いた。これを書くとかえって待遇がよかったりするのだ。ギャラは少ないけど服役中の人は一般の人よりよく働く。 何しろ一般の人は働かなくても良いのだから。今、世界中で真面目に働いているのはほとんどが服役中の人で国際的にももっとも良質な労働力として評価されている。
「よろしくおねがいします」
申請を出すと、受付の人はこれをスキャナに通す。するとディスプレイにデータが表示される。受付の人は上から表示されるデータを怪訝そうに見ていたが一番下のデータが表示されると急に笑顔になった。 そして日付けの入った紙を渡してくれた。そこには3日後の日付けがプリントされていた。なんと2週間のはずが3日で済むらしい。ラッキー。
「服役中ってスバラシイ、さ~、これから3日間何しようかな」
ホテルに帰ってシャワーを浴び、ノートの電源を入れる。
「早く、指つっこみたいなぁ」
ライセンスを取って1ヶ月しないと専用のネットワークには入れない。申請をして1ヶ月の審査期間でアドレスが交付されるから労働ライセンスを取ってすぐに申請をしても1ヶ月後になってしまう。 それまではマスクアドレスを利用して誰かから情報を得るしかない。メールチェックをしてみるとホヨヨa~ン、またあっちゃんからメールが届いている。
『そちらで専用ネットワークに入るライセンスが取れたらここに行ってほしい』
『XXXXXXX.XXXXXXX.XXX.XXXX.XXXX.XX1ヶ月後に会いましょう』
「なんだか怪しいなぁ~、また、何かあるのかなぁ」
なんとなく不安を感じながらノートの電源を落とした。さて、そろそろ夕食の時間だ。「レストランヌリョー」は相変わらず込むでもなくかといってガラガラというわけでもなく、のんびりとした雰囲気で開店していた。 そういえばお昼の残りの2品はどうだったかというと残りの2品が同じ麺を茹でたものと、揚げたものだった。ようするに「ラーメン」と「皿うどん」。どちらも味がなくてハニャレロをドバドバかけて食べる。 つまり、味はおんなじ、食感が違うだけ。はたからみたら何考えてんねん、という感じだろうがしかたがなかった。腹が減っていたのでなんとか食えたが、量も多いので1つ頼めば十分だという事がわかった。 そして夕食は一つだけ頼む。これで少しづつ名前がわかっていく。待つ事20分いわゆる「ラーメン」だった。う~む、これだったのか、などと考えながらハニャレロをかけていると後ろから
「ハニャレロ、セイチャ~ン」
ヤシダンの声だった。
「ハニャレロ、ヤシダ~ン」
僕も答えた。
「セイチャ~ン、ニホンジ~ン、コンニワチ」
「おっ、ヤシダン日本語出来るの?」
「ワシタ、ニホンゴ、バッチリ、ハナルセ」
かなりいい加減だが、ここで日本語らしきものが聞けると思ってなかったので泣きそうになってしまった。
「ヤシダン、これ何?」
ヤシダンは考えながら
「コレナニ」
と言った。いきなり解らないらしい。ほんとに彼と会話できるかどうか心配になってきた。そこで僕は考えた末、ラーメンのようなものを指差しながら、
「コレハワナニデスカ」
と言ってみた。
「おーっ、これはベキュリーです。そうです、その通りです」
思った通りだ。外国教科書に出ているローマ字日本語が通じるのだ。これで、この国になれていく事が出来そうだ。
「ヤシダン、一緒に食事をするのは、良いですか」
「ヤシダンは、せいちゃんと一緒に食事をするのは良いです」
こうして、二人で食事をしながらこの国の事と日本の事を話し合った。その中でわかったのは、ヤシダンも実は服役中、なんと僕とあまり変わらない状態らしい。ヤシダンはニリメール人で同じように国外退去になってヘルデコに来たというわけだ。 いわば、同じ穴のむじなってとこですかね。そこで意気投合した僕達は一緒に飲みに行った。ヘルデコ名物、ポラス通りだ。このポラス通りはアジアでは有名な飲みや街で屋台から高級バーまでなんでもありって感じなのだ。 僕達はお互い服役中なので高級なところには行けない。二人で街の屋台に入った。僕は注文をヤシダンにまかせて、屋台の雰囲気に浸っていた。
「お客さん、焼酎はどうだい」
マスターの顔を見たらどうやら日本人だった。
「俺の顔に何か付いているかい」
知らない人なのだが何だか知ってる感じがする。でもやっぱりなんだか不思議な感じだ。
「僕はあんたに会った事があるような気がするんだが?」
マスターはにやにや笑いながら言った。
「俺、ネコに似てないかい」
「ひょっとして、よっちゃんかい?」
「あたり~」
なんと、またもやよっちゃんの登場である。
「よっちゃん、どうしたの」
よっちゃんは、急に下を向いて、
「俺は、今、ヘリコという名前のニリメール人だ」
僕は瞬間的に今の状態を理解した。よっちゃんは今、ニリメール人だと言った。ヤシダンと同じだ。この店につれてきたのはヤシダンだ。つまり、ヤシダンはよっちゃんと繋がっている。 おかしい、僕はなんとなくこの国に来たはずなのに、あっちゃんの影がつきまとっている。良く考えたらあっちゃんのメールもおかしい。 『1ヶ月後に会おう』なんて、よ~く考えたら、労働ライセンスを取るのに2週間、それから1ヶ月かかるのだ。3日で労働ライセンスが取れるのを知っていたとしか思えない。 でも、今、そんなことを考えても何も答えは出てきそうもない。黙ってでされた焼酎を飲む。僕がいつも飲むグラスで冷やに近いワンショットグラスだった。いろんなつまみを食べながらしこたま飲んだ。 つまみは、アサリの酒蒸し、マグロの山かけ、等、日本のつまみだった。よっちゃんはヤシダンに言った。
「ヤシダン、ペリコ、チエネ、クヒャオ」
よっちゃんは店じまいを始めた。
「よっちゃん、何だよ」
よっちゃんは言った。
「ヘコ、アッチャン、チエネ、クヒャオ」
僕が解らないと思ってヘルデコ語を使うのはやめて欲しい。これではまるで文明人につれられている未開人ではないか。でも、しかたがない。おかげで、この国でなんだか面白い事になりそうだ。とにかく、付いて行く事にした。
「よっちゃん、ヤシダンに付いて行けばいいの?」
「そうだよ、ヤシダンに付いて行けばいいの」
ヤシダンが僕に向かって言った。
「せいちゃんと、一緒に行くのがとても良い」
こうなったらとことん付いて行こうではないですか。ああ付いて行きます。どこでも生きます。何が起こっても知るもんか。僕はヤシダンについて屋台を出行った。ヤシダンは先にたってどんどん進んで行く。 ある、如何わしそうなネオンきらきらの店に入って行った。おいおいどうなってるんだ。こんな店でなにをしようってんだ。ヤシダンはどんどん奥に入って行く。一番奥のテーブルに座ると、なんだかウフンというかんじのお姉さんが出てきた。 まずいことになってきたなぁ、と思っているとさらに女が出てきた。どっかで見た事のある女だ。
「あ、あんたは、あの時の.......」
そうなのだ。あの、成田で会ったというかジーッと見ていたあの女だ。日本人だ。多分。なにやらヤシダンと親しそうに話している。僕の隣のウフンの女はこっちの方を見ながらなにやら怪しい目線を送っている。思わず僕は、
「ヤシダン、ここへ何でするのですか」
ヤシダンはよっちゃんのようににやにやしながら、
「せいちゃんは、これから半分、地下に潜って元気です」
なになに~、地下に潜るだとぉ。僕は今、服役中なんだぞ。どうしたら、いいんだ。
「ヤシダン、私は服役中です」
ヤシダンはそれに答えて、
「この国では、地下は危険ではない、みんな半分は地下で生きている」
そうなのか。何となくわかってきたぞ。なんたって違法ネット天国だもんな。あまり、気にしていては生きて行けないのだ。きっと、そういう事なのだ。ヤシダンと二人でビールを1本飲んでから、ヤシダンは、
「せいちゃん、では、地下に行きます」
ヤシダンは、立ち上がってまた、どんどん先にたって店の奥に入って行った。当然僕は付いて行った。