ESSAY
「寝室のくつわ虫 第三章」
ー旅立ち(1)ー
夜明けとともにノート端末を持って空港に向かった。これでこの部屋ともお別れである。なぜかって?もうばっちりサーチされたんだよね。あっさり。 ここを出たらもう二度とカギはあかないから今まで買いそろえた機材は政府に没収される。しばらくはネットにも入れない。最悪だ。でも裁判でノート端末だけは確保した。陪審員にあっちゃんが手配してくれた人がいて助けてくれた。
「まぁ、これがあるのがせめてものなんとかってやつか」
ぼくは端末をたたきながら言った。
「さぁ、これからどこへ行こうか」
ポケットからカードを取り出すとノートに突っ込む。
「残りカウントで行ける所はっと」
データが吐き出されてくる『クコパ・ニリメール・ネルポ・ヘルデコ・ミニャン』。
「あんまり遠くには行けそうもないな」
ある都市をクリックするとあと、2時間で出発できそうだ。空港まで1時間、食事をしてちょうど良い時間だ。車に潜り込んでエンジンをかける。 出国するまでは僕の車だ。空港で空港警察に書類とキーを渡せば、駐車料金はただだけど二度と自分の所には戻ってこない国営自動車保管所に行ってしまう。
「さてとっ、新しい世界にしゅっぱ~つ。って感じかな」
行き先を空港にセットしてアクセルボタンを押すとゆっくりと車は走り出す。 昔は自分でハンドルを握ってないと何となく不安だったが、もうフルオートマティックカーに乗って4年になるから今さらハンドルを握らなくなったね。高速に入ってしまうともうずっとトンネルの中だから、回りの景色を見ることもない。 僕は1時間の睡眠をとった。この国での最後の眠りになるはずだった。車の到着アラームが静かになって僕を起こしてくれた。空港についたことを知らせてくれている。空港警察で書類にサインして、レストランに入った。ここに来るのもひさしぶりである。 物理的に自分が移動するなんて事はめったにないのにそのうえ飛行機に乗るってんだから10年ぶりぐらいだ。10年経っても食べたくなるのはやっぱり、ドライカレー。およそ、人の食べ物の中でドライカレーというものほどうまいものはないね。 今までで一番うまかったのは大阪のスケアクロウという店のドライカレー。この空港レストランのカレーは同じような味がするんだよね。ドライカレーをバクバク食べてて気がついたけど、さっきから、こっちをギュ~っと見てるやつがいる。空港警察の職員かと思ったけどそうでもなさそうだ。
「なんだ、なんだ。あいつは。もう、監視がついちゃったかなぁ」
「でも、女だしなぁ。一目会ったその日から、恋の花さく事もある。なんてね」
つい3日前まで裁判してたやつのいうことではないけど判決は国外退去なのでいわば「所払い」。実刑と言っても軽いもんである。旅行気分でいてもしょうがないのである。
「そろそろ時間か。出かけるとするか」
水を一杯飲んでから席をたった。そして機上の人となるわけでした。 一人で乗る飛行機はたいへんだ。大体回りが楽しそうに話をしているのにこっちは話し相手がいない。 お酒でも飲もうかなと思ってもひとりじゃつまんないし、はたまたまわりに、知らない人ばっかりたくさんいる中では、落ち着いて飲めないし、そうこうしているうちに、さぁ飯だ、肉か魚か。とか、何か飲むか。とか、いろいろ言ってくる。 みんな満腹で少し静かになったと思ったら、やれ映画をするぞ、てめーらおとなしく見てろ。なんて感じで落ち着かない。 感動大キョヘンだったりしたらまわりで知らない人が泣いたり、カップルはいちゃいちゃモードに入ったりで、こっちとしては、もう、寝るしかないな。って状態に入るわけです。だからといってこんな狭いシートで寝ろって言うのがどだいむり。 どんなにがんばっても、うとうとできればもうけもんな状態なのです。
「ちくしょう、やっぱビール飲むぞ」
ビール5缶を飲み干すと、少し気分も落ち着いてきた。
「さてと、これから行く国の情報でもすこしインプットしとくかなっと」
ノートを狭い台にのっけてケーブルをシートの下にあるソケットに差し込む。昔は飛行機内でノートに電源を入れる事すら御法度だったが最近ではデータだけ持って行れば機内で貸し出しサービスだって受けられる。 でも、普通は本体を持って行ってケーブルでつなぐんだよね。なにしろ貸し出しのハードなんかにデータいれちゃうのは、もう、みなさ~ん僕のデータあげますよ~ん、と言っているのと同じ事なんだから。油断も隙もあったもんじゃない。
「う~ん。あんまり情勢はよくないなぁ、労働ライセンスがいるのかぁ」
なにげなくメーラーを立ち上げて送受信をしてみると、ホヨヨ~ンという音がして受信メールを知らせている。
「おかしいなぁ、もう、メールアドレス消去処分されてるはずなのに」
中身を見ると、あっちゃんからだ。
『国外退去の気分はどうですか』
『ネットに手を回してアドレスいかしときました』
『明日、またメールします』
いいきなもんだ。あっちゃんのせいでこうなったのに気分はどうですかだと、こんにゃろー。まぁアドレスが生きていただけでも感謝しないとな。それもマスクアドレスにしてあるので使ってても全然ばれない。ありがたいんだか、なんだかわかんないなぁ。 そうこうしているうちに眠くなってきた。さすがにいつもの旅行と違ってどっと疲れているみたいだ。
「おおっ、なんだか初めて機内で寝られるような気がしてきたぞ」
なんて、言いながら深い眠りに入ったのであった。
ー旅立ち(2)ー
目覚めるとホテルの一室。ここは、ヘルデコの政府公認「パコ観光ホテル」である。 飛行機内で寝ていて、目覚めるとホテルの一室などとかくと文明もそこまで進歩したかと勘違いをする人がなかにはいるといけないので一応説明すると、普通に到着して、普通にタクシーに乗って、普通にチェックインをして、普通にシャワーを浴びて、 普通に寝て、という部分を端折ったのです。あまりにも普通だったので。
「あ~あ。なんにもないなぁ、この街は」
この国に行くことを決めたのは以前のネット仕事でここは違法ネット天国だってことを知っていたからだ。しかし、まずは仕事をしなくてはいけない。普通に生活をするだけなら金はいらないのだが、ネットに入るためにはどうしても労働ライセンスが必要である。
「労働ライセンスは、申請から2週間もかかる、なんとかならんかなぁ」
申請は昼から行く事にして、まずは腹ごしらえをする事にした。
「こうなったら、食べる事しか楽しみがないからね」
「無料レストランでもうまいものあるかなぁ」
などとぶつぶつ言いながら「レストラン・ヌリョー」にはいっていった。メニューをみながら気が付いたのだが、なんと、英語表記すらないのである。なんだかわからない記号のような文字がニョロリニョロリと並んでいて何のことかさっぱりわからず、 回りをみわたしても明らかに現地の人だぞ俺は、なんか文句あっかという感じの人しかいなくて、迷うとかそういう次元ではなくなってしまった。う~む、無料レストランは一度に3品しか頼んではいけないらしいのだが、また、 全部食べないと罰金と言う名前で全額払わなくてはいけない制度なのよね、この国は。
「まいったぞ、こんな所でつまずいていたのでは、この先が心配になってきたなぁ」
とりあえずウエイターを呼んで、メニューから3つ指差してたのむ。何が来るかどきどきである。何しろ、ここはアジアである。子供の頃テレビで見た食べ物番組で、それは恐ろしい逸品が続々登場してくるのを見て、 その日の夕御飯はギブアップして食べれなかった事を思い出した。ところが、最初に出てきたのは焼うどんのような、いかにもうまそうな麺であった。
「これが3つの内の何れかわかればなぁ、とりあえず3つともメモっとこ」
メモをとった3つの内の一つである事は間違いないのである。今の所、確率33%で毎日、まともなものが食べれると言うわけだ。おもむろに箸でクルクルッとまいて、口に放り込んでみると、味がない。もう全然ない。空しく皿をながめていると、こわそうなおじさんが寄ってきて、
「ハニャレロ、ハニャレロ、ヒリ、ホリッチョ」
と言いながらテーブルの傍らにあるマッカッカの液体を僕の皿にドバドバかけるではないか。
「なにをしてるのですか」
日本語で聞くと、
「ハニャレロ、ピキット、プリポロ」
とうれしそうに笑っているのであった。ぼくは液体を指差して、
「ハニャレロ?」
と言うとおじさんはさらにうれしそうに笑いながら、
「ハニャレロ」
とうなずいている。どうやらこれはハニャレロというこの焼うどんの薬味らしい。しかし、ぱっと見、うまそうだった僕の焼うどんは今では烈火のごとく燃える怒りの麺といった感じになっていて逆にひと皿食ったら鼻から火が出るのではないかと言う様相を呈しているのだ。 おそるおそるその怒りの麺を口に放り込んだら、うっうまいではないか、たしかにめちゃくちゃ辛くなってしまったが、なぜかこれがうまい。じわっと甘味すら感じるのだ。う~む、おそるべし、ハニャレロ。なんとかあのおじさんにお礼が言いたいのだが、 今、理解している現地語はハニャレロだけで、これではどうしていいかわからない。しかたがないので、僕はおじさんに向かって満面の笑みをうかべて手を降りながら、
「ハニャレロ」
と叫んだのであった。おじさんも僕の言っている意味がわかったみたいで、うれしそうに
「ハニャレロ、ピキット」
と答えてくれた。そして自分を指差して、
「ヤシダン、ケロ」
というので名前だろうと思って、僕も自分を指差して、
「セイチャン、ケロ」
と言った。これがこのあと、ずっと旅を一緒に続ける事になるヤシダンとの出合いであった。
「こりゃ~、労働ライセンスなんてとんでもないな」
何を言ってるのかもわからないのにライセンスもへったくれもないもんだ。
夜明けとともにノート端末を持って空港に向かった。これでこの部屋ともお別れである。なぜかって?もうばっちりサーチされたんだよね。あっさり。 ここを出たらもう二度とカギはあかないから今まで買いそろえた機材は政府に没収される。しばらくはネットにも入れない。最悪だ。でも裁判でノート端末だけは確保した。陪審員にあっちゃんが手配してくれた人がいて助けてくれた。
「まぁ、これがあるのがせめてものなんとかってやつか」
ぼくは端末をたたきながら言った。
「さぁ、これからどこへ行こうか」
ポケットからカードを取り出すとノートに突っ込む。
「残りカウントで行ける所はっと」
データが吐き出されてくる『クコパ・ニリメール・ネルポ・ヘルデコ・ミニャン』。
「あんまり遠くには行けそうもないな」
ある都市をクリックするとあと、2時間で出発できそうだ。空港まで1時間、食事をしてちょうど良い時間だ。車に潜り込んでエンジンをかける。 出国するまでは僕の車だ。空港で空港警察に書類とキーを渡せば、駐車料金はただだけど二度と自分の所には戻ってこない国営自動車保管所に行ってしまう。
「さてとっ、新しい世界にしゅっぱ~つ。って感じかな」
行き先を空港にセットしてアクセルボタンを押すとゆっくりと車は走り出す。 昔は自分でハンドルを握ってないと何となく不安だったが、もうフルオートマティックカーに乗って4年になるから今さらハンドルを握らなくなったね。高速に入ってしまうともうずっとトンネルの中だから、回りの景色を見ることもない。 僕は1時間の睡眠をとった。この国での最後の眠りになるはずだった。車の到着アラームが静かになって僕を起こしてくれた。空港についたことを知らせてくれている。空港警察で書類にサインして、レストランに入った。ここに来るのもひさしぶりである。 物理的に自分が移動するなんて事はめったにないのにそのうえ飛行機に乗るってんだから10年ぶりぐらいだ。10年経っても食べたくなるのはやっぱり、ドライカレー。およそ、人の食べ物の中でドライカレーというものほどうまいものはないね。 今までで一番うまかったのは大阪のスケアクロウという店のドライカレー。この空港レストランのカレーは同じような味がするんだよね。ドライカレーをバクバク食べてて気がついたけど、さっきから、こっちをギュ~っと見てるやつがいる。空港警察の職員かと思ったけどそうでもなさそうだ。
「なんだ、なんだ。あいつは。もう、監視がついちゃったかなぁ」
「でも、女だしなぁ。一目会ったその日から、恋の花さく事もある。なんてね」
つい3日前まで裁判してたやつのいうことではないけど判決は国外退去なのでいわば「所払い」。実刑と言っても軽いもんである。旅行気分でいてもしょうがないのである。
「そろそろ時間か。出かけるとするか」
水を一杯飲んでから席をたった。そして機上の人となるわけでした。 一人で乗る飛行機はたいへんだ。大体回りが楽しそうに話をしているのにこっちは話し相手がいない。 お酒でも飲もうかなと思ってもひとりじゃつまんないし、はたまたまわりに、知らない人ばっかりたくさんいる中では、落ち着いて飲めないし、そうこうしているうちに、さぁ飯だ、肉か魚か。とか、何か飲むか。とか、いろいろ言ってくる。 みんな満腹で少し静かになったと思ったら、やれ映画をするぞ、てめーらおとなしく見てろ。なんて感じで落ち着かない。 感動大キョヘンだったりしたらまわりで知らない人が泣いたり、カップルはいちゃいちゃモードに入ったりで、こっちとしては、もう、寝るしかないな。って状態に入るわけです。だからといってこんな狭いシートで寝ろって言うのがどだいむり。 どんなにがんばっても、うとうとできればもうけもんな状態なのです。
「ちくしょう、やっぱビール飲むぞ」
ビール5缶を飲み干すと、少し気分も落ち着いてきた。
「さてと、これから行く国の情報でもすこしインプットしとくかなっと」
ノートを狭い台にのっけてケーブルをシートの下にあるソケットに差し込む。昔は飛行機内でノートに電源を入れる事すら御法度だったが最近ではデータだけ持って行れば機内で貸し出しサービスだって受けられる。 でも、普通は本体を持って行ってケーブルでつなぐんだよね。なにしろ貸し出しのハードなんかにデータいれちゃうのは、もう、みなさ~ん僕のデータあげますよ~ん、と言っているのと同じ事なんだから。油断も隙もあったもんじゃない。
「う~ん。あんまり情勢はよくないなぁ、労働ライセンスがいるのかぁ」
なにげなくメーラーを立ち上げて送受信をしてみると、ホヨヨ~ンという音がして受信メールを知らせている。
「おかしいなぁ、もう、メールアドレス消去処分されてるはずなのに」
中身を見ると、あっちゃんからだ。
『国外退去の気分はどうですか』
『ネットに手を回してアドレスいかしときました』
『明日、またメールします』
いいきなもんだ。あっちゃんのせいでこうなったのに気分はどうですかだと、こんにゃろー。まぁアドレスが生きていただけでも感謝しないとな。それもマスクアドレスにしてあるので使ってても全然ばれない。ありがたいんだか、なんだかわかんないなぁ。 そうこうしているうちに眠くなってきた。さすがにいつもの旅行と違ってどっと疲れているみたいだ。
「おおっ、なんだか初めて機内で寝られるような気がしてきたぞ」
なんて、言いながら深い眠りに入ったのであった。
ー旅立ち(2)ー
目覚めるとホテルの一室。ここは、ヘルデコの政府公認「パコ観光ホテル」である。 飛行機内で寝ていて、目覚めるとホテルの一室などとかくと文明もそこまで進歩したかと勘違いをする人がなかにはいるといけないので一応説明すると、普通に到着して、普通にタクシーに乗って、普通にチェックインをして、普通にシャワーを浴びて、 普通に寝て、という部分を端折ったのです。あまりにも普通だったので。
「あ~あ。なんにもないなぁ、この街は」
この国に行くことを決めたのは以前のネット仕事でここは違法ネット天国だってことを知っていたからだ。しかし、まずは仕事をしなくてはいけない。普通に生活をするだけなら金はいらないのだが、ネットに入るためにはどうしても労働ライセンスが必要である。
「労働ライセンスは、申請から2週間もかかる、なんとかならんかなぁ」
申請は昼から行く事にして、まずは腹ごしらえをする事にした。
「こうなったら、食べる事しか楽しみがないからね」
「無料レストランでもうまいものあるかなぁ」
などとぶつぶつ言いながら「レストラン・ヌリョー」にはいっていった。メニューをみながら気が付いたのだが、なんと、英語表記すらないのである。なんだかわからない記号のような文字がニョロリニョロリと並んでいて何のことかさっぱりわからず、 回りをみわたしても明らかに現地の人だぞ俺は、なんか文句あっかという感じの人しかいなくて、迷うとかそういう次元ではなくなってしまった。う~む、無料レストランは一度に3品しか頼んではいけないらしいのだが、また、 全部食べないと罰金と言う名前で全額払わなくてはいけない制度なのよね、この国は。
「まいったぞ、こんな所でつまずいていたのでは、この先が心配になってきたなぁ」
とりあえずウエイターを呼んで、メニューから3つ指差してたのむ。何が来るかどきどきである。何しろ、ここはアジアである。子供の頃テレビで見た食べ物番組で、それは恐ろしい逸品が続々登場してくるのを見て、 その日の夕御飯はギブアップして食べれなかった事を思い出した。ところが、最初に出てきたのは焼うどんのような、いかにもうまそうな麺であった。
「これが3つの内の何れかわかればなぁ、とりあえず3つともメモっとこ」
メモをとった3つの内の一つである事は間違いないのである。今の所、確率33%で毎日、まともなものが食べれると言うわけだ。おもむろに箸でクルクルッとまいて、口に放り込んでみると、味がない。もう全然ない。空しく皿をながめていると、こわそうなおじさんが寄ってきて、
「ハニャレロ、ハニャレロ、ヒリ、ホリッチョ」
と言いながらテーブルの傍らにあるマッカッカの液体を僕の皿にドバドバかけるではないか。
「なにをしてるのですか」
日本語で聞くと、
「ハニャレロ、ピキット、プリポロ」
とうれしそうに笑っているのであった。ぼくは液体を指差して、
「ハニャレロ?」
と言うとおじさんはさらにうれしそうに笑いながら、
「ハニャレロ」
とうなずいている。どうやらこれはハニャレロというこの焼うどんの薬味らしい。しかし、ぱっと見、うまそうだった僕の焼うどんは今では烈火のごとく燃える怒りの麺といった感じになっていて逆にひと皿食ったら鼻から火が出るのではないかと言う様相を呈しているのだ。 おそるおそるその怒りの麺を口に放り込んだら、うっうまいではないか、たしかにめちゃくちゃ辛くなってしまったが、なぜかこれがうまい。じわっと甘味すら感じるのだ。う~む、おそるべし、ハニャレロ。なんとかあのおじさんにお礼が言いたいのだが、 今、理解している現地語はハニャレロだけで、これではどうしていいかわからない。しかたがないので、僕はおじさんに向かって満面の笑みをうかべて手を降りながら、
「ハニャレロ」
と叫んだのであった。おじさんも僕の言っている意味がわかったみたいで、うれしそうに
「ハニャレロ、ピキット」
と答えてくれた。そして自分を指差して、
「ヤシダン、ケロ」
というので名前だろうと思って、僕も自分を指差して、
「セイチャン、ケロ」
と言った。これがこのあと、ずっと旅を一緒に続ける事になるヤシダンとの出合いであった。
「こりゃ~、労働ライセンスなんてとんでもないな」
何を言ってるのかもわからないのにライセンスもへったくれもないもんだ。